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フローリアン・ゼレール監督の映画『ザ・サン』の父親役について、「どこか心の奥深くで演じる必要性を感じていたのではないかと思います。」と語る、多彩な才能を兼ね備えた俳優、歌手、ダンサー、舞台パフォーマーのヒュー・ジャックマン(Hugh Jackman)(54歳)。

OK! インタビュー☆ヒュー・ジャックマン:映画『ザ・サン』からの教訓(後編)

「子供たちへ自身の弱さを隠さず、正直な父親として接することができるようになった。」と語る、10代の息子を救おうと苦悩する父親役を演じたヒュー。

━━なぜ親は子供に心を開くことができないのだと思いますか?

例えば、昼食にどんなサンドイッチを用意したらよいのかという日々の選択を含め、親は子供たちのために行う選択に常に絶対的な自信を持っているわけではないと思います。私の子供たちは既に成長していますが、子育ての過程で“あなたが親として必ずしも正しい決定をしているとは限らない。でも、それはそれで仕方がないこと、と言ってくれる人がいればどんなに助かったかな”と思ったりもしています。

子育ては大きな挑戦です。この映画に出てくる全ての登場人物は、互いに愛を持って助け合いたいと思っていますが、それと同時に自分たちがとても無力で無能な存在であるとも感じています。この映画に関わって学んだことは、精神的な苦痛に直面している人と接する際、その解決は時として愛だけでは不十分だということです。そしてそれがわが子の場合、親の愛だけで十分ではないことを認識し、その道の専門家を含めて友人、または教師に救いの手を求めることを恐れてはならないという教訓です。

私たちは皆、父親や母親以上の存在を必要とするときがあるものです。特にメンタルヘルスへの対応には、教師やコミュニティーのサポートが必要であり、この映画は家族の中だけで物事を解決しようとすることには無理があるという教訓を与えてくれていると思います。

━━『ザ・サン』(原題:THE SON)への出演は、自らの子育てに関する疑問や、“父親とはこうあらねばならない”というご自身の固定概念と対峙せざるを得ないような体験だったと思いますか?

だからこそ、僕個人としては非常に難しいだろうと思っていたこの役柄をどうしても演じてみたいと思ったんです。今までは通例として親、特に父親は子供たちのために絶対的な存在で、常に強さを示さなければならないという神話があったわけです。

しかし、実際には父親も自分が傷つきやすく、弱い側面を見せることで、子供たちも心を開き、学校での苦労や友達を作ることができない悩み、悲しくて落ち込んでいることについて話をすることができるという現実があるわけです。つまり、父親と母親の期待に応えるために強いふりをする必要はないと子供たちに感じてもらうためにも子供たちとの会話は絶対に必要なことだと思います。

━━では、あなたは今、自分の子供に対してあなたの気持ちをオープンに伝えることを心地よいと感じているのでしょうか?

はい…男性も女性と同じくらい繊細で弱い側面を持っている。女の子は成長して自然に女性になりますが、私が育った当時はまだ男の子は男性に鍛えられるという経験を通して初めて大人の男になるという概念が根強く残っている時代でした。ですから男の子はいやでも常にそうしたプレッシャーを抱えていました。でも、そうした概念は今本当に疑問視されていますし、それはとても良いことだと思っています。

つまり、自分の弱さを隠すのではなく正直に明かすことから新たな可能性の側面が見えてくるというメッセージが、私がこの物語に深く共感した多くの理由の一つなんです。

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━━監督のフローリアン・ゼルラー(Florian Zeller)は、事前のリハーサルをしないと決めたと聞いていますが、それはなぜだと思いますか?

特にフローリアンは今まで数多くの戯曲を書き、舞台劇出身の人で、リハーサルのプロセスが大好きなはずです。そして私にとってもリハーサルはとても大切なプロセスでしたので、フローリアンの選択は私にとっても大変興味深いものでした。

しかし、私たちの映画作りのためにフローリアンは、彼が持つ独特の本能で、リハーサルをせず、その場その場でそれぞれのシーンを始めることで、きっと各シーンが即興劇の贈り物のように舞い戻ってくるであろうと感じたのでしょう。だから私たちも彼の本能の中に飛び込んでリハーサルなしの演技をしたのですが、実を言うと私はそのプロセスが大好きでした。

ディナーシーン(難しい6分間のシーケンス(一続きによって構成される、ストーリー展開上の一つのまとめ))では、俳優としてその場その場のディナーの場に座り、登場人物像や、その人たちが持つ歴史ついて学ぶことができました。

━━『ザ・サン』は家族という形がどれほど壊れやすいものであるかについて多くのことを語っていると思いますか?

私はこの映画は、大人、そして特に男性が持つ脆弱な側面や、そのことからくる罪悪感について語っている映画だと思います。痛みや不安という目に見えない感情は謎であり、それがどこからくるのか分からないという不安や、それによって両親がどういう対応をするかという恐れを呼ぶことになり得るのです。

私は両親が再婚する際、子供たちがどのように反応するか、そしてどのようにして新しい生活に適応するかについて数多くの調査をしてきました。子供たちが別の生活に適応し、片方の親がもう自分のそばにいないことを認識する過程には非常に多くの厄介な問題が潜んでいると思います。

━━離婚した両親はこの映画から何を学ぶことができると思いますか?

離婚した両親に提案できるいちばん大きなメッセージは、隠れた領域を照らすことの大切さだと思います。この映画の中では、離婚した両親が10代の息子を何とかして救うおうと苦悩し、彼の怒りを理解するのに苦労していますが、こうした状況では自分たちが何をすべきかわからず、ただただ無力感が増すだけだと思います。

もちろん、こうした状況に陥ることにはたくさんの理由があるわけです。そして対処の仕方によっては決して避けられない苦悩ではないにも関わらず、非常に多くの親が沈黙の中でこうした問題に苦しんでいます。しかし、重要なことはそうした問題を提起し、話し合いの場をつくることだと思います。そういった意味でも、この映画が送るメッセージは数多くの人たちのためになるのではないかと自負しています。

━━これは、困難なメンタルヘルスに対処する家族のために役立つメッセージを送る作品だと思いますか? それとも単に親子関係を潤滑にすることに役立つという感想をお持ちですか?

この映画がどのような形で注目されるにしても、私は“メンタルヘルス”についての会話を始めるきっかけになることを願っています。今、世界中で問題となっているこうした課題を提起する映画に出演し、メッセージを送る機会を頂いたことに感謝すると同時に、この作品に出演できたことをとても光栄に思っています。“何も分からない、脆弱な状況の中から、会話を始める可能性を見出すことの大切さを知ること”、それがこの映画に対する私の希望です。

━━この映画に出演した後のいちばん大きな収穫は何だと思いますか?

それはこの映画が私に自分の心を開く可能性と、その素晴らしさについて教えてくれたことだと思います。

ヒュー・ジャックマンによる上記のコメントは、2022年9月8日に開催されたヴェネツィア国際映画祭『ザ・サン』のワールドプレミアで語られたもので、その内容は要約および編集されています。

Interview © Jan Janssen / Wenn
Photos © WENN.com

END.

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